父とガチャ子さん その5 父の膝の上で
父は晩年大病を患いました。手術を受けたのですが、その後の回復はあまり思わしくありませんでした。
背は高くはないものの、決してやせ型ではなかった父の体は見る影もなく細く薄くなっていきました。
けれども、ガチャ子さんはあいかわらず父の膝に乗りたがります。5キロ近い体重のガチャ子さんを乗せることは、父にとっては相当な負担だったはずです。
帰省した折など、細い父の足の上に陣取るガチャ子さんを見かねて、抱き下ろそうとしました。けれども父は、「おろさなくていい」と一言。
重くて大変なのではないか、という私の問いには答えませんでした。もう、説明するのが億劫になっていたのだと思います。
病気になる前と比べれば、明らかに座り心地が悪くなっている父の膝に、最後までガチャ子さんは乗りたがりました。
そういうガチャ子さんを、父は最後まで受け入れていました。
父が亡くなったのは、夏の初めでした。いなくなった父を捜すようなそぶりはみせなかったガチャ子さんでしたが、その夏の間ずっと、食器棚の上の段ボール箱の中に入ったままで一日の大半を過ごしたのでした。
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