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2010年6月18日 (金)

父とガチャ子さん その4 ガチャ子さん失踪事件

 これは母から聞いた話です。

 ある朝早くのこと、リビングダイニングで新聞を読んでいたはずの父が、血相を変えて自分の部屋に戻ってきてものも言わずに手早く着替え始めました。
 ただならない様子をいぶかしく思った母がどうしたのかと尋ねると、
「ガチャ子がいない。空気の入れ換えをしようと思って開けておいたドアの隙間から外に出て行ったみたいだが、マンションの廊下にも見あたらない。」
 そう言い残して父は外に飛び出していきました。

 両親の住まいは集合住宅ですが、廊下はいわゆる内廊下です。すぐに建物の外に出て行ってしまうということにはなりにくいのですが、迷子になる可能性がゼロではありません。

 父は、内廊下の端から端まで名前を呼びながら探したのですが、ガチャ子さんはどこにも居ませんでした。間の悪いことに、いつもは閉まっているはずの非常階段に続く扉が開いていたため、ここから外に出てしまったかと、階段を下りていきましたが、やはり姿はおろか鳴き声すら聞こえてきません。

 引きつった顔で家に戻ってきた父に、母は猫用の缶詰と金属のスプーンを渡し、これをたたきながら名前を呼べば、食いしん坊のガチャ子のことだから出てくるかもしれない、とアドバイスをしました。

 再び探しに行った父でしたが、幸いなことにほどなくしてガチャ子さんを抱いて帰ってくることができました。

 やはりガチャ子さんは、非常階段にいたそうです。下の階ではなく上の方の階の踊り場に震えながらうずくまっていたとか。
 その非常階段は外階段ではなく、建物の内側にある階段だったのが幸いしました。もしも外階段だったら、慣れない外の様子に混乱して走り出し、どこかに行ってしまっていたかもしれません。

 ともあれ、過ぎてしまえば笑い話。この話をしてくれたとき、母はこうも言いました。
 「あのときのお父さんの顔、見せたかったわよ。目がつり上がって必死の形相で。今思い出すと、笑っちゃうんだけどね。」

 父の言い分はこうでした。
 「ガチャ子がいなくなったら、藻塩が泣いて大騒ぎして面倒だから」

 さすが私の父。素直ではありませんね。

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